どうぶつ基金が動物愛護法の改正を求める署名を開始|「所有権の壁」とは何か、今の法律でできないこと
公益財団法人どうぶつ基金は2026年10月13日、動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)の改正を求める署名をChange.orgで始めました。この記事では、3つの要望と「所有権の壁」、今の法律でできること・できないことを解説します。
どうぶつ基金が求めているのは、命の危険がある動物を飼い主の同意を待たずに保護できる「緊急一時保護」の新設など3点です。署名のニュースで「所有権の壁」という言葉が気になった方、署名に参加するか考える前に何が求められているのかを知りたい方に向けて書きました。
読み解く軸は2つです。要望はどうぶつ基金の発表文と要望書の言葉で、今の法律はe-Gov法令検索の現行条文で確かめます。
執筆:ペトログ編集部
この記事でわかること
- どうぶつ基金が2026年10月13日に始めた署名の宛先と、求めている3点
- 3点それぞれが、今の動物愛護法のどこに対応するのか(表で整理)
- 「所有権の壁」とは何か(民法第85条・第206条と動物愛護法第2条)
- 虐待のおそれがあるとき、今の法律で都道府県知事にできること(第25条)
- 飼い主として知っておきたいことと、相談先
どうぶつ基金が10月13日に動物愛護法改正の署名を開始、宛先は動物愛護議員連盟
公益財団法人どうぶつ基金(本部:兵庫県芦屋市、理事長:佐上邦久)は2026年10月13日、動物愛護法の改正を求める要望書を「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」へ提出したとPR TIMESで発表しました。要望書の日付は令和8年(2026年)10月7日です。
出典:公益財団法人どうぶつ基金(2026年10月13日発表、PR TIMES掲載)
あわせて、広く市民の賛同を募るため、Change.orgでオンライン署名を始めています。署名の宛先も同じ議員連盟です。
目の前の命を救えるように――「所有権の壁」を越えて、動物を緊急に保護できるよう動物愛護法の改正を求めます公益財団法人どうぶつ基金が発信したオンライン署名のページです。Change.org
発表では、署名の期間は10月13日からとされており、終了日は書かれていません。
求めている3点と、今の法律ではどうなっているか
発表文は、要望の柱を「入口・保護中・出口」の3つにまとめています。それぞれ今の法律のどこに当たるのか、条文と並べて表にしました。
| 求めていること | 発表での説明 | 今の法律ではどうなっているか |
|---|---|---|
| 【入口】緊急一時保護(第25条の改正+新設) | 危険時に所有者の同意を待たず一時的に保護できる権限を新設。適正手続きを担保 | 第25条で都道府県知事にできるのは、指導・助言、勧告、命令、報告の徴収、立入検査まで。動物を所有者から引き離して保護する規定はない |
| 【保護中】緊急かつ必要最低限の治療(新設) | 保護期間中、獣医師の判断で必要最小限の治療を可能に | 緊急一時保護の制度がないため、保護中の治療を定めた規定もない。獣医師には虐待を受けたと思われる動物を見つけたときの通報義務がある(第41条の2) |
| 【出口】飼養禁止命令と所有権の移転(第44条ほかの新設) | 改善も引き取りもなければ所有権を移し、譲渡や不妊手術を可能に | 第44条は殺傷・虐待・遺棄への罰則(殺傷は5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金など)。飼養を禁じる命令や、所有権を移す規定はない |
注:「求めていること」「発表での説明」は、どうぶつ基金が2026年10月13日にPR TIMESで発表した文面によります。「今の法律ではどうなっているか」は、2026年10月14日にe-Gov法令検索で確認した現行の条文(令和8年6月5日施行)をペトログ編集部が要約したものです。
要望書では、このほかに次の3点も求めています。
- 第2条に「民法第85条にかかわらず、命あるもの」と明記すること
- 保護した動物の受け皿となる「指定法人」の仕組み
- 虐待の疑いを認知した行政の対応義務の明記
発表文は提案の考え方を、児童虐待防止法の一時保護やDV防止法の保護命令と同じ「権利と福祉の調整原理」を動物にも適用するものだと説明しています。
「所有権の壁」とは何か|動物は民法上「物」
「所有権の壁」をひとことで言うと
飼い主が拒めば、行政も保護団体も動物を連れ出す法的な手段がない、ということです(どうぶつ基金の発表文と署名ページの説明を、ペトログ編集部が要約)。
発表文が「所有権の壁」と呼んでいるのは、動物の命や健康に明らかな危険が及んでいても、飼い主が拒めば行政・警察・民間団体が同意なく介入することは原則としてできない状況のことです。発表文は、その土台に動物の民法上の扱いがあるとしています。
関係する条文は3つです。動物は民法上「物」として扱われ(第85条)、所有者には第206条の権利があります。一方で、動物愛護法第2条は、動物を「命あるもの」として扱うよう定めています。
| 条文 | 定めていること |
|---|---|
| 民法第85条 | この法律において「物」とは、有体物をいう |
| 民法第206条 | 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する |
| 動物愛護法第2条 | 動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない(第1項) |
注:条文は2026年10月14日にe-Gov法令検索で確認した現行の条文によります。
発表文によると、前回改正で強化された罰則は加害を「事後に罰する」仕組みであり、危険にさらされている動物を「引き離す入口」は現行法にない、とのことです。どうぶつ基金が求めているのは、発表文の言葉で言えば、罰則とは別に「いま危険にさらされている動物を引き離す入口」をつくることです。
今の動物愛護法で都道府県知事にできること(第25条)と、条文にないこと
では、虐待のおそれがあるとき、今の法律で行政には何ができるのか。動物愛護法第25条に書かれた都道府県知事の権限は、主に次の3つです。
- 騒音や悪臭などで周辺の生活環境が損なわれているとき:指導・助言(第1項)、勧告(第2項)、勧告に従わない場合の命令(第3項)
- 飼い方が適正でないことで動物が衰弱するなど、虐待を受けるおそれがあるとき:改善に必要な措置の命令または勧告(第4項)
- これらに必要な限度で、飼い主に報告を求め、職員が飼養場所に立ち入って検査する(第5項)
命令に従わなければ50万円以下の罰金(第46条の2)、立入検査を拒んだり妨げたりすれば20万円以下の罰金(第47条の3)です。虐待そのものには、第44条の罰則があります。
ただし、第25条の立入検査は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」とされています(第6項で第24条第3項を準用)。条文に書かれているのは、飼い主に改善を求めるための手段までです。飼い主の同意なく動物をその場から引き離して保護する規定は、第25条にも第44条にもありません。
警察の権限は別の仕組み
虐待が犯罪として捜査される場合の警察の権限は、動物愛護法とは別の仕組みです。この記事では扱いません。
ほかの条文も見ておきましょう。第35条の犬猫の引取りは、所有者から求められた場合と所有者の判明しない犬猫が対象で、飼い主が手放す意思を示していない動物を引き取る根拠にはなりません。
また、獣医師には虐待を受けたと思われる動物を見つけたときの通報義務があります(第41条の2)。通報の仕組みはあっても、通報の先で動物を引き離す手段は条文にありません。
発表文が現行法の限界を示す事例として挙げている2件には、この記事では触れません。報道された動物愛護法違反の事件がその後どうなったかは、事件一覧にまとめました。
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ペトログ編集部の視点
要望書は、所有者の同意を待たずに一時的に保護できる権限と、「保護した動物を誰が抱えるのか」という受け皿をセットで提案しています。
保護ボランティアの多くがすでにキャパシティを超えている現状に触れ、緊急一時保護は必ずしも全頭の搬出を意味しないとしています。そのうえで、一時預かり・協力動物病院・既存の保護団体を「指定法人」として束ね、財源と連動させる仕組みを示しています。発表文の言葉で言えば「分散型の受け皿」です。
緊急一時保護の発動要件について、要望書は「動物の生命・健康に危険が及び、かつ所有者による適切な飼養が期待できない場合」とし、適正手続きを担保するとしています。具体的な基準や、だれが判断するかまでは書かれていません。
改正の時期や法案提出の予定は、発表文・要望書には書かれていません。動きがあれば続報します。
飼い主として、今できること
- 飼い主さんは、今の動物愛護法が飼い主に何を求め(第7条)、何を禁じ(第44条)、行政に何ができるのか(第25条)を知っておいてください
- 虐待かもしれない場面を見かけたときは、発見した場所の自治体の動物愛護担当窓口か警察に相談してください。緊急のときは110番。窓口は環境省の地方自治体動物虐待等通報窓口一覧で探せます
よくある質問
Q. 動物愛護法25条の内容は何ですか?
A. 周辺の生活環境が損なわれているときや、動物が虐待を受けるおそれがあるときに、都道府県知事が飼い主に指導・勧告・命令を出し、報告を求めたり立入検査をしたりできると定めた条文です。動物を飼い主から引き離して保護する権限は書かれていません。
Q. 動物愛護法44条1項の内容は何ですか?
A. 愛護動物をみだりに殺したり傷つけたりした者を、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金に処すると定めた条文です。第2項が虐待、第3項が遺棄の罰則で、いずれも1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。飼養を禁じる命令や、所有権を移す定めは第44条にありません。
まとめ
この記事の要点
- どうぶつ基金は2026年10月13日、動物愛護議員連盟に要望書を提出し、Change.orgで動物愛護法改正の署名を開始。求めているのは、緊急一時保護の新設、保護中の必要最小限の治療、飼養禁止命令と所有権の移転の3点
- 動物は民法上「物」として扱われ、所有者には法令の制限内で自由に使用・収益・処分する権利がある。発表文は、飼い主が拒めば同意なく介入することは原則できない状況を「所有権の壁」と呼んでいる
- 今の動物愛護法第25条で都道府県知事にできるのは指導・勧告・命令・立入検査まで。飼い主の同意なく動物を引き離して保護する規定は条文にない
動物愛護法の仕組みを確かめる
今回の要望が何を変えようとしているのかは、今の法律の全体像を知っておくと読みやすくなります。飼い主の責務(第7条)と罰則(第44条)、2019年の改正で変わった点は、動物愛護法とは|罰則と飼い主の義務をわかりやすく解説にまとめています。
動物愛護法とは|罰則と飼い主の義務をわかりやすく解説 動物愛護法(正式名称:動物の愛護及び管理に関する法律)は、動物の虐待や遺棄を禁じ、飼い主の責任を定めた法律です。この記事では、飼い主に求められることと罰則を、条文に沿ってわか...
出典
- 公益財団法人どうぶつ基金『「所有権の壁」で救えない命をなくすために━━どうぶつ基金、動物愛護法改正を求めるオンライン署名を開始』(PR TIMES、2026年10月13日10:00)(2026-10-14確認)
- 公益財団法人どうぶつ基金「動物の愛護及び管理に関する法律の改正についての要望書」(令和8年10月7日付、PDF)(2026-10-14確認)
- Change.org『目の前の命を救えるように―― 「所有権の壁」を越えて、動物を緊急に保護できるよう動物愛護法の改正を求めます』(署名発信者:公益財団法人どうぶつ基金)(2026-10-14確認)
- e-Gov法令検索「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48年法律第105号)(2026-10-14確認。令和8年6月5日施行の現行条文。第2条・第24条・第25条・第35条・第41条の2・第44条・第46条の2・第47条の3)
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)第85条・第206条(2026-10-14確認)
- 環境省「地方自治体動物虐待等通報窓口一覧」(2026-10-14確認。掲載は令和8年5月現在)
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