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国民の声が国を動かした——畜産業のアニマルウェルフェア補助金が初めて成立

国内ニュース
2026.04.07公開
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執筆:ペトログ編集部

2025年12月16日、第219回臨時国会にて令和7年度補正予算が成立しました。この予算のなかに、日本の畜産業におけるアニマルウェルフェア(動物福祉)への補助金が2件、初めて盛り込まれていたことをご存知でしょうか。

成立から数ヶ月が経ちましたが、この変化は動物を愛する私たちにとっても無関係ではありません。動物を愛する方々にとってこれはなぜ重要なのか。そして日本は世界と比べてどこにいるのか。現状と今回の変化を改めて解説します。

「動物を生かすも殺すも人間である」——ペトログはその事実と向き合い続けています。畜産動物であっても、愛するペットであっても、命の重さは変わらない。日本が「動物と自然にやさしい国」になるために、私たちは情報を届けることから始めます。

アニマルウェルフェアとは

アニマルウェルフェア(AW)とは、動物が生きて死ぬまでの身体的・心理的状態を指す概念です。国際獣疫事務局(WOAH)が「5つの自由」——飢えからの自由、苦痛からの自由、恐怖からの自由、不快からの自由、通常の行動を発現する自由——を指標として定めており、日本も加盟しています。

農林水産省も2023年7月にWOAHの国際基準に対応した「畜種ごとの飼養管理等に関する技術的な指針」を公表しました。しかし「指針はあれど補助金がない」という状況が長年続いており、農家がアニマルウェルフェアに配慮した設備に切り替えたくても、コストが壁になってきました。

今回成立した補助金 2件

① ガススタニング設備への補助——鶏の意識喪失処理がようやく支援対象に

正式事業名:畜産物等流通構造高度化・輸出拡大事業(167億円)の内数「先進モデル的食鳥処理施設整備事業」(新設) 補助率:導入機材費の1/2以内

日本の多くの食鳥処理場では、鶏を逆さ吊りにしたまま電気スタニング(感電処理)を行っています。この方法は処理の失敗が多く、鶏が意識を失わないまま処理されるケースもあると指摘されてきました。

世界では、二酸化炭素や窒素などのガスを用いて逆さ吊りにする前に意識を失わせる「ガススタニング(CAS:制御式空気気絶処理)」への移行が急速に進んでいます。欧州連合(EU)では2012年にコンベンショナルバタリーケージ(旧来型)を禁止し、CASの普及も進んでいます。

農林水産省の補正予算資料にも「国際的にも対応が急務となっているアニマルウェルフェア対応型のスタニング設備の導入」と明記されており、国として初めてアニマルウェルフェア自体に価値を認めた補助事業となりました。

② 農場でのAW配慮施設への補助——ケージフリー・妊娠ストールフリーへの転換を後押し

正式事業名:畜産クラスター等による生産基盤の維持・強化(農水省補正予算55番)

農場レベルでのアニマルウェルフェア改善(採卵鶏のケージフリー飼育、豚の妊娠ストールフリーなど)を支援する事業です。

従来のこの補助事業は「収益性向上タイプ」が中心で、収益力強化・規模拡大の成果目標を設定することが求められており、収益性向上に直ちに結びつきにくいアニマルウェルフェア施設の整備には使いにくい構造でした。令和7年度補正予算では「持続性向上タイプ」が新設・強化され、アニマルウェルフェアを成果目標として設定したクラスター計画に基づく施設整備も支援対象に明示されました。これにより収益性向上を直ちに示せなくてもケージフリー飼育や妊娠ストールフリーの施設整備への補助申請が可能になり、ハードルが大きく下がりました。

日本のケージフリー率は世界最低水準——データで見る現実

今回の補助金成立がなぜ重要なのかを理解するには、日本の現状を数字で見る必要があります。

採卵鶏のケージフリー率 国際比較

  • スウェーデン | 約100% | ほぼ完全移行
  • ドイツ | 約95% | EU法規制が牽引
  • オランダ | 約90% | EU法規制が牽引
  • オーストリア | 約75% | EU法規制が牽引
  • フランス | 約50% | 大手小売が牽引
  • 英国 | 約60% | 2012年以降着実に増加
  • オーストラリア | 約45% | 消費者・企業主導で拡大
  • 米国 | 約38% | 州別規制+民間企業コミットで急拡大
  • 韓国 | 約3% | アジアでは比較的進んでいる
  • 中国 | 約10% | 規模は大きいが普及途上
  • 日本 | 約1.48% | アジア最低水準

※日本の数値はNPO法人アニマルライツセンター「ケージフリー羽数実態把握調査2025」(民間調査)。麻布大学 動物資源経済学研究室の2025年調査では約3.17%。調査方法が異なるため単純比較には注意が必要だが、いずれも世界最低水準であることに変わりない。他国データはGCAW「Cage-Free Eggs: A Global Landscape Review」(2023)Our World in Data等より。

EUは2012年にコンベンショナルバタリーケージ(旧来型の狭いケージ)を禁止しました。ただし現在も改良型の「エンリッチドケージ」は合法で、依然として多くの鶏がケージで飼育されています。欧州議会は2021年に「2027年までに全ケージを禁止する」よう求める決議を採択しましたが、2025年時点でこれはまだ目標・公約の段階であり、欧州委員会による法制化は実現していません。米国はUSDAの公式統計によると、2018年時点の約15%から2023年には38%へと急拡大しました(州別の規制と大手企業のコミットメントが牽引)。

日本の採卵鶏の約98%は現在もケージに閉じ込められたままです。

この数字を見たとき、私たちペトログ編集部は率直に「知らなかった」という方が多いのではないかと感じます。愛犬や愛猫の食事や環境には心を配る飼い主さんが、食卓の卵や鶏肉の裏側にある現実を知る機会は、まだまだ少ない。だからこそ、こうした情報を届け続けることに意味があると考えています。

なぜここまで遅れたのか

日本のアニマルウェルフェアが遅れてきた背景には複数の要因があります。

「輸出しなくていい」という構造的な慣性 欧米諸国ではアニマルウェルフェア基準を満たさない畜産物の輸入規制が強化されており、輸出依存度の高い国の生産者は自然と対応を迫られます。一方、日本は畜産物の自給率が高く輸出も少ないため、国際的な圧力にさらされにくい構造でした。

補助金なき指針の限界 農林水産省は2023年に国際基準に対応した飼養管理指針を発表しましたが、補助金なしには農家が設備転換のコストを負担できません。「やりたくても初期投資が重すぎる」という農家の声が長年続いていました。

市民の声と団体の粘り強い活動 NPO法人アニマルライツセンターは2017年から食鳥処理場への調査・対話を継続。署名運動・企業との対話・国会議員へのロビー活動を積み重ね、複数の国会議員が委員会でアニマルウェルフェアの補助金の必要性を取り上げるまでになりました。今回の補助金成立は、その活動の成果でもあります。

この変化の意義と今後の課題

今回の補助金成立は「日本のアニマルウェルフェアが終わった」のではなく、「ようやくスタートラインに立った」と捉えるべきです。

成立の意義 補助金の存在は、農家が「アニマルウェルフェアへの転換」を経営判断として検討できる環境をつくります。また、国が「アニマルウェルフェアに価値がある」と認めたことは、企業がケージフリーコミットメントを発表しやすくなる土壌にもなります。

残る課題 補助率は1/2以内であり、初期投資のすべてをカバーするものではありません。ガススタニング設備は数千万円規模の投資となるため、特に中小の食鳥処理場には依然として高いハードルがあります。また、補助金の申請・採択には一定の事務手続きが必要であり、制度が実際の設備導入につながるまでには時間がかかります。

加えて、「補助金があれば農家が動く」とは限りません。ケージフリー卵への需要が確保されなければ、農家はリスクをとりにくいのが現実です。補助金の成立と並行して、消費者・企業・小売業者が「ケージフリー卵を買う」「ケージフリーにコミットする」という需要側の動きがなければ、転換はなかなか進みません。

私たちにできること

制度が変わっても、それを動かすのは最終的に消費者の選択です。

ペトログを使ってくださっている方々は、動物のことを深く考えている方が多いと思います。愛犬・愛猫への愛情を、食卓の選択にも少しだけ広げてみてください。それだけで、遠くにいる動物たちの環境が変わる力になります。

今日からできること

  • スーパーで卵を選ぶとき、「平飼い」「放し飼い」と表記された卵を手に取ってみる
  • 外食チェーンや食品企業がケージフリーにコミットしているかを調べてみる
  • ペトログで実際の飼育環境に配慮したペットフードやおやつのレビューを参考にする

1人ひとりの小さな選択が積み重なることで、農家が転換しやすい市場ができていきます。

まとめ

令和7年度補正予算(2025年12月16日成立)に、日本初となる畜産アニマルウェルフェアへの補助金が2件盛り込まれました。食鳥処理場でのガススタニング設備導入(補助率1/2)と、農場でのケージフリー・妊娠ストールフリー施設への転換支援(持続性向上タイプの新設によりAW目標での申請が可能に)がその内容です。

日本のケージフリー率は約1.48〜3.17%と世界最低水準にある一方、EUは50%超、米国は38%、スウェーデンはほぼ100%に達しています。今回の補助金成立は、市民・団体の長年の活動が国を動かした大きな一歩ですが、制度を実際の変化につなげるためには農家・企業・消費者の3者が連動して動く必要があります。

ペトログは、「全ての社会活動において、動物福祉が前提となる社会へ」という信念のもと、これからも情報を発信し続けます。動物たちの命が尊重される社会は、壮大な目標かもしれません。それでも、一歩ずつ確実に近づけると信じています。

📌 参考資料・出典

🔗 財務省「令和7年度予算」(補正予算の成立日・閣議決定日の確認)
🔗 農林水産省「令和7年度農林水産関係補正予算の概要」(事業の正式名称・補助率の確認:52番・55番)
🔗 農林水産省「アニマルウェルフェアについて」(国際基準・WOAH・農水省指針)
🔗 NPO法人アニマルライツセンター「ケージフリー羽数実態把握調査2025」(日本のケージフリー率1.48%)
🔗 麻布大学 動物資源経済学研究室「ケージフリー採卵養鶏実態調査2025」(日本のケージフリー率3.17%)
🔗 GCAW(Global Coalition for Animal Welfare)「Cage-Free Eggs: A Global Landscape Review」(2023)(各国ケージフリー率)
🔗 Our World in Data「Share of egg production that is cage-free」(英国・米国データ)
🔗 NPO法人アニマルライツセンター Hope For Animals「鶏のガススタニング:アニマルウェルフェアに補助がはじまった!」(2025年12月)
🔗 USDA Economic Research Service「Growing share of egg-laying hens are cage-free」(米国ケージフリー率の推移)

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